時は昭和××年。
舞台は海の向こう、満州国にいたしましょう。
既に歴史の過ちとして葬り去られた、かりそめの国家でございます。
激動のかの大地を流れる牡丹江、大河を下る外輪船。
船上、ある青年が美しい水の精に出会ったといいます。
浦島太郎よろしく時を忘れ、互いに手を取り合えばよいものを、
水の精は、人間の女房になろうと涙ぐましい努力をいたします。
いずれ泡と消える定めをもつ人間と
たおやかに流れ続ける水の儚き調べは恋に非ず。
ただ磯に打ちつけた大波のように割れて砕けて裂けて
散るまでのお話なのであります。
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